世界の印刷通販事情
最終更新日: 2014年03月10日
世界の印刷通販事情を考える
欧米の印刷市場をみると、米国ではWeb to printが広く利用されていますが、ヨーロッパでは印刷通販が盛り上がっています。世界最大の印刷通販会社VIstaprint(ビスタプリント)もフランスからビジネスをスタートし、現在はオランダに本社を置いています。
こうした背景もあることから、今回はヨーロッパに本社を置く主要な印刷通販会社4社の分析を通じて、海外の印刷通販事情についてご紹介します。
でもその前に、日本の印刷通販市場の特徴をまとめておきましょう。その方が、海外の印刷通販事情をより深く理解できますので:
日本の印刷通販事情
・矢野経済研究所によれば、2012年度の印刷通販市場規模は489億7,200万円、2013年度には543億9,000万円に伸びる見込み。
・とてもプレーヤー数が多い。200以上の印刷通販サイトがあるが、市場の50%程度は大手2社が占めている。
・総合型印刷通販に加えて、商材特化型印刷通販サービスも盛り上がっている。
・日本国内向けで、日本語だけで提供されている。
・同業者からの受注が多い。
Vistaprint(ビスタプリント)
では、ここから海外の印刷通販会社の分析を始めましょう。まずは、世界最大の印刷通販会社Vistaprint(ビスタプリント)です:
Vistaprint社は、1994年フランス・パリで創業、現在はオランダ・フェンローに本社を置く世界最大の印刷通販会社です。社員数4,000人以上、2013年度(2012年7月?2013年6月)の売上は11億6,800万ドル(1,168億円、$1=100円換算)でした。これを地域別に見ると、以下のように北米が中心となっています:
・北米:6億4,430万ドル(644億円、全体の55%)
・欧州:4億5,220万ドル(452億円、全体の39%)
・アジア・パシフィック:7,100万ドル(71億円、全体の6%)
実は、Vistaprintの北米の売上は、日本の印刷通販市場全体を上回る規模です。しかし、
米国の印刷会社は印刷通販会社をそれほど脅威だとは感じていないようで、話題に上がることはほとんどなさそうです。この理由は、Vistaprintは小規模事業者や個人など、既存の印刷会社とはバッティングしない市場向けにサービスをしているためだと思われます。
2013年4月?6月におけるVistaprintの1件当たりの平均受注単価はどのくらいだと思いますか?何と、40.4ドル(約4,000円)です!また、この3ヶ月に受注した件数は650万件、1日平均約7万1,000件です!!Vistaprintによれば、2013年度に注文したユニークカスタマー数(1回でも注文した顧客数)は1,580万で、130カ国以上に出荷しています。Webサイトも、日本語版を含む25以上のローカライズされたものが提供されています。
顧客層と同様に、提供している商材も多様化しています。商業印刷物はもちろん、服やノベルティグッズ、さらにはWebサイトや電子メールマーケティングといったデジタルマーケティングのサービスも提供しています。このように、顧客や商材を多様化させることで、Vistaprintは特定の顧客や商材に依存しない状況を意図的に作っています。
また、新規顧客比率が高いこともVistaprintの特徴です。ユニークカスタマーの内訳をみると、新規顧客64%・リピート顧客36%となっています。Vistaprintは売上の21%(年間約245億円、月間20億円以上!)を広告に費やしていますが、この背景にはこうした新規顧客比率が高いことがありそうです。
Flyeralarm(フライヤーアラーム)
Flyeralarm社は、ドイツ・ヴュルツブルグ(バイエルン州)に本社を置く、2002年創業の総合印刷通販会社です。社員数は1500名、1日あたりおよそ1万件を受注しており、2012年の売上は2億6,000万ユーロ(約350億円、1ユーロ=135円換算)でした。
Flyeralarmの特徴として、倍版のオフセット印刷機や洗練されたギャンギング(面付け)システムを導入・活用することで、非常に高い業務効率を実現していることが挙げられます。また、トンボをなくすことで印刷用紙を端まで使うなど、徹底的に無駄を省く取組みも大きな特徴のひとつです。
現在、ドイツ、オランダ、オーストラリア、スペイン、イタリア、ポーランド、英国などの市場に向けてWebサイトを提供していますが、生産はドイツに集中させています。これも、生産効率を高めることに貢献しています。
Pixartprinting(ピクスアートプリンティング):
Pixartprinting社は、イタリア・クアルトダルティーノ(ヴェネツィア)に本社を置く総合印刷通販会社です(従業員数320名)。1994年、普通の印刷会社として創業されましたが、2000年に印刷通販会社に転換しました。商材では、ワイドフォーマットの仕事に力を入れていることが特徴として挙げられます。
現在、11カ国語(イタリア語、英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語、ポーランド語、ルーマニア語、オランダ語、スウェーデン語、ロシア語)のWebサイト経由でサービスを提供し、6カ国(イタリア、フランス、スペイン、ポルトガル、英国、ドイツ)では電話によるカスタマーサービスも提供しています。
Pixpartprinitingによれば、顧客の90%が印刷会社など商業印刷分野のプロです。顧客ロイヤルティを高めるため、「フレンドリー・リプリント・ポリシー」(Friendly Reprint Policy)で対応しています。これは、何か問題が起こったとき、Pixartprintingの責任ではない場合でも、顧客からのリプリントの要望に応じるというものです。
moo(ムー)
mooは英国・ロンドンに本社を置く印刷通販会社です。ただ、これまでにご紹介した3社と異なり、名刺やグリーティングカード、シールなどに特化した「商材特化型」サービスになります(社員数90名)。
mooは、2004年にデザイナーの社長によって創業されました、そのため、非常にデザイン性の高いテンプレートを使ったサービスを提供しています。また、ソーシャルメディアネットワーク(SNS)をマーケティングに積極的に取り入れていることも特徴として挙げられます。
mooも他の印刷通販会社と同様に、多言語でWebサイトを展開しています(現在6カ国語:英語(英国・米国)、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語)。ただ、リアルの店舗を持っている点で他社と異なっています(2013年2月頃にロンドンにオープン)。
この店舗では商材のサンプルが見られることに加えて、起業についての相談(印刷物以外のノウハウ提供も含めて)ができたり、近距離無線通信技術NFCを活用した名刺の実験を行ったりしているなど、特徴のあるサービスが提供されています。
海外印刷通販のまとめ
このように、ヨーロッパの主な印刷通販会社はそれぞれ個性的なのですが、「自国以外にもサービスを提供している」「多言語でサービスを提供している」という共通点も持っています。私は個人的に、この2点が日本の印刷通販会社と決定的な違いだと考えています。
多言語で自国以外に印刷通販サービスを提供すること。これは、日本の印刷通販会社にとって大きな事業機会です。欧米はもちろん、アジア地域でもインターネット環境や物流などの事業インフラが急速に進化しつつあります。日本の印刷通販会社も、ぜひ海外市場に打って出ましょう!
また、Vistaprintやmooのように、小規模事業者・個人といった新しい顧客層を開拓することも魅力的な事業機会です。スマートフォンやタブレットの利用拡大は、この新しい市場を開拓する追い風となっています。
おわりに
ところで、皆さんは英語で印刷通販のことを何というかご存知ですか?恥ずかしながら私もPRINT13の取材時に初めて知ったのですが、印刷通販も「Web to print」だそうです。
「W2P = 価格非公開型のWebで受発注される印刷サービス」というのは米国での話で、日本やヨーロッパでは「W2P = 価格公開型サービス」という展開をしているのです。W2Pに関していえば、日本は米国から必ずしも遅れている訳ではなく、別の進化をしていると言えそうです。
米国の印刷機材メーカーの方々から「日本ではなぜW2Pが広まらないのか」と質問されることが多いのですが、これからは、「日本では印刷通販という形で既に大きな存在感を示しています!」と自信を持って答えられそうです。その時は逆に、「なぜ、米国では印刷通販が使われていないのですか?」という質問もしてみたいと思います。
(執筆者:ブライター・レイター 山下潤一郎)