デザイナー・インタビュー
Vol.23

デザイナー

澤本 佑子 さん

イタズラな妖精のように世界を飛び回る、文字界の住人

アメリカ留学中に図書館でヤン・チヒョルトの本に出会い、タイポグラフィの美しさに「これだ!」と衝撃を受けたという澤本さん。それから約10年、日本とアメリカの架け橋となり、デザインの仕事を通じ文字の魅力を伝えている。

現在に至る経緯を教えてください。

幼少の頃から、祖母たちの影響か、物作りに興味をもっていました。
母方の祖母は水彩画や俳句をたしなむ人であり、本を出したり新聞に掲載されたりしていました。
父方の祖母は日本人形を作ったり、布花を作ったりしていました。布に染色するところからです。
両親が共働きだったため、祖母達と触れ合う機会が多かったです。

中学生の時に初めての海外旅行でドイツを訪れ、風景、建物、人々、食べ物等、見るもの全てが物珍しく感じられました。異文化に触れて以来、日本をいつか飛び出したいという希望があったのでしょうね。高校生の頃に北米でのホームステイを何度か体験し、現地の同世代と交流することで、音楽やファッション、映画など、ますます海外、特にアメリカの文化に興味を持つようになりました。それで大学でもアメリカ文化研究を専攻することになったと。。。
実は高校卒業と同時にアメリカに留学したかったのですが、母より「何を学びにアメリカに行くのか」と問われてまだその答えが準備できていなかった。かつ日本の大学を卒業してもその思いが変わらなければ行きなさいと。

それで日本の大学でアメリカ文化(歴史/女性史/文学諸々)を学ぶ傍ら、情報処理のクラスでウェブデザインの先駆け的なものを学び、デザインという職業があることを初めて知りました。当時はアメリカが先端だったので、せっかく学ぶならベストなものを!と、かねてからの夢でもあったアメリカの美大への留学を果たすことになったのです。

まあ、半分はやっぱり留学したかった、海外で生活をしてみたかったというのが正直ありますが。デザインという指標を日本の大学生活の中で見つけたのは事実ですね。

美大の図書館でヤン・チヒョルトのタイポグラフィに出会って、イラストも写真もなく、文字のみでレイアウトが構成されているのにもかかわらず、そのデザインの完成度の高さ、全てを削ぎ落としたシンプルな美しさ、独自の世界観に衝撃を受けました。ちょうど自分のデザイン、自分の表現を探していた時期だったので「これだ!」と思いました。
それから現在に至るまで、文字街道をまっしぐらです。

デザインのお仕事の中で、文字好きはどのように活かされていますか?

例えばグローバル展開をしている企業さんですとブランディング上、英語と日本語の製作物でイメージがずれてはいけません。徹底した統一感が求められます。同じ空気感、同じイメージを、違う言語で表現しなくてはならない。それはもう無数にあるフォント、文字組み、大きさ、色、余白の可能性の掛け合わせなのですが、それを細かく合わせていきます。元々アメリカの大学で本や雑誌のタイプセッティングの仕事をしていたので、欧文の方が得意なのですが、最近は和文の文字組みにも興味がでてきました。
いい文字組みとは、文字を気にせずスラスラ読めるものです。書体や文字組みで違和感を持たれたら内容が伝わりません。

日本ではずっとフリーでお仕事をされていますか?

手描きのレタリング

手描きのレタリング


最初はデザイン事務所に所属しており、次に外資の大手広告代理店、次に飲食業界でインハウスデザイナーをやりました。どこの企業でも本当にいい勉強をさせてもらって、特に飲食のインハウスデザイナーとして勤務していた時は、店舗の巨大な黒板にカリグラフィーの特技を活かして生でドローイングさせてもらったり、ディレクションだけでなく、カメラも担当したり。一つの目標に向かって皆でチームとなり何かを作り上げるという魅力も知りました。
独立したのは1年ほど前、自分で仕事をコントロールするためです。一度体を壊している事もありますので、仕事に責任をもつためにもコントロールする必要がありました。それと、じっと机に座ってデザインしているだけでなく、デザインを軸にもっと色々な事に挑戦したかった。人と会って話をするのが好きなんです。

印刷に対しての興味はありますか?

カリフォルニアジョブケース

カリフォルニアジョブケース


かなり特殊印刷や活版印刷で遊んでいます。最近は自主制作として、文字好きにはたまらないカリフォルニアジョブケースという活字ボックスをデザインしたグリーティングカードや、年賀状など作りました。
レトロ印刷という印刷通販がありまして、今年はこちらで年賀状を何パターンも作ってみました。孔版で黒地に金を乗せるとどうか、インクが落ちると言われているがどの程度落ちるのか、蛍光インクはどの程度の文字の大きさまで読めるかなど。自主制作で遊んで、仕事で使えるかどうか試しています。
もちろん、デザイナーですから普通の印刷物もやります。プリントパックグラフィックなど使ったことがあります。とにかくギリギリまで仕様が決まらないので、通販はスピードの点で優れていると思います。

他に物作りで取り組んでいることは?

自主制作の年賀状

自主制作の年賀状


実は、文字好きが高じて”石彫り”にはまっています。月に1回の石彫り会に参加して、師匠や先輩に習っているところです。石彫りは水やすりでひたすら削って石を滑らかににするところからはじまります。文字の下書きを1日かけてクリティークを繰り返し、文字のバランスや字間の取り方など批評をもらいながら下図を完成させます。そこから2~3日かけて石を実際に彫ります。10センチ四方の石彫りを完成させるのに、なんだかんだで1週間ぐらいでしょうか。膨大な時間がかかるもので、職人技みたいなものですね。
石彫りを始めてみると、やはり街中にある機械彫りのアルファベットは味気なく感じますね。日本語にも興味があって、手彫りの墓石なんかもまじまじと見てしまいます。怪しい人みたいです。

今後の活動予定を教えてください。

デザインは今まで通り続けていきます。特に文字にこだわるもの、英語が必要なもの、飲食や健康に関するデザインなど。同時に、机を離れて人と会う活動を増やしていきます。各方面の面白い人とつながりができているので、私はデザインや英語というものを軸にしながら、皆さんとコラボレーションしてワークショップ、イベントを企画しています。
趣味と実益を兼ねて「文字好きによる文字好きのための文字ツアー」も企画中。ヨーロッパには文字の美術館がいくつもあるので、そういうところを巡ったり、街中の素晴らしい文字を見たり、タイプファウンダリーや活版、デザインスタジオを訪問したり。貪欲に、自分の好奇心に正直に活動をしていきます。

澤本さんへのご相談はこちらから

所在地

東京都

氏名

澤本 佑子

連絡先

yko_s78(あっと)yahoo.com ※(あっと)は@に置き換えてください

運営者のコメント

最初お会いしてしばらくは普通の方だと思ったのですが、1時間も話をしているうちに「この人は妖精にちがいない!」と思えてきました。チョコチョコ活発に動き、好奇心旺盛で、イタズラで。そして深い文字愛に脱帽です。

2015年05月07日

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