前回は印刷通販がなぜ一般の印刷会社より安価に商品の提供ができるのか、その理由について「用紙調達」の工夫という点から解説しました。

「面付け」と「用紙調達」の工夫という大きな要因に加えて、一般的な印刷会社とは異なる印刷通販ならではの特徴は他にもあります。今回はこれを解説し、3回にわたって続いたこの記事を締めくくりたいと思います。

入稿データの責任をユーザが持つことで、印刷会社の人材や工程をスマートに

印刷通販会社にデータを入稿する際、データやレイアウトについての責任は入稿するユーザが持つ必要があります。そのデータやレイアウトに何か問題があった場合は、印刷の作業がストップしたり、最悪の場合はデータが受理されずに改めて入稿をし直す必要があります。最近はデータやレイアウトのチェックをウェブ上で行えるサービスを提供している印刷通販会社も増えていますが、そのチェックを通過するためにはデータを入稿するユーザがそのための知識や技術を持っている必要があることは言うまでもありません。ちなみに、このように特に現場側で修正や追加が必要とせずに、不足なくそのまま刷版(ハンコ)が出力できるデータを「完全データ」といいます。

一般的な印刷会社の場合も、もちろんデータに大きな問題があれば作業の中断や再入稿が求められます。しかし、ちょっとしたデータの作り間違いの場合ならば、印刷会社内の製版部門のDTPオペレータが修正を行ってくれる場合も多いです(もちろん勝手に修正をする訳ではなく、担当営業を通じて確認を取った上でのことです)。印刷日程を厳守せねばならない印刷物などの場合は、このように電話やメールなどでの確認だけで、時間をかけずに現場で対応をしてくれる存在はありがたいといえるでしょう。

もちろんその分データ修正代や組版代などが必要になる場合が多いので、それが不要な分印刷通販の印刷料金は安くできるのです。また、このようにできる限りデータについての責任をユーザ側が負担することによって、印刷通販会社ではデータ確認や営業のための人材や工程の手間を大きく省くことができます。その分トータルなコストを下げることができるとも言えます。また、作業の中断も減らすことができるので、その分印刷全体の作業の進行もスムーズに進み、印刷の回転率を増やすことも可能となります。

しかし、完全データを作成するにはそれなりのDTPや印刷、デザインについての知識や技術が必要なのは言うまでもありません。印刷通販の知名度が上がりユーザー数が増えるにしたがい、完全データを作るための知識や技術に欠けるユーザも増えてきています。
そのため多くの印刷通販では、データの自動修正サービス、普及しているMicrosoftオフィスデータの印刷データ変換サービスや、PDFなどの簡単な入稿方法を充実させるなどの対応に目下力を注いでいる状況です。

プリントネットのPDF入稿解説ページ。ポイント付加やDTPソフトからの書出しを簡単にするためのプリセットの用意など、印刷通販各社はPDF入稿をはじめとした入稿のハードルを下げるサービスに力を入れている。
出典:https://odahara.jp/guide/pdf_point/

 

色校を省略することで、高い色校代が不要に

一般的な印刷会社の場合、入稿後に「色校正」という試し刷りを確認する必要があります。色校正はユーザ側からすると、印刷の色味や、正しくデータが出力されているかを確認するためものです。対して印刷会社側からすると、「色校正にOKを出したならば(校了したならば)、色校正を確認して修正した以上のことはこの後の工程では責任を持てません。お互い文句無しですよ」ということを示す、ある種の証文的な役割もあります(もちろん本印刷のトラブルで仕上りに問題があれば別の話です)。なので、一般的な印刷会社の場合、色校正を出すことが必須とされている場合も少なくありません。

印刷通販では、この色校正は基本的に省略されています(オプションのサービスが用意されている会社はあります)。色校正を省略することによって、色校正を印刷するための費用(色校正代)も不要になります。色校正には実際に印刷する印刷機で印刷する本機校正、大判のプリンタで出力する簡易校正などがありますが、特に本機校正の場合、かなり費用がかかります(1000部以下の印刷では、印刷費用の半分程度が色校正代になるという場合もざらです)。この色校正を省略することにより、大きく印刷コストを減らすことができるのです。

また、色校正のチェックと戻しにかかる日程を省略できることで、印刷の回転率を上げることができます。

もちろん色校正を省略する分、例えば商品の色に印刷の色を合わせるなど、色校正を確認しながら求めて行くようなシビアな色再現は難しいといえます。このような場合にはやはり一般的な印刷会社を選択した方が、より納得できる結果を得られるといえるでしょう。

そして、印刷会社の方と直接コミュニケーションを取れることは、何と言ってもいざというときの安心感があります。色校正紙を挟みつつ担当営業の方と相談しながら、印刷について色について一緒に話し合って印刷物の完成度を高めていくことは、印刷物に関わる仕事における一つの醍醐味ともいえるでしょう。
しかしながら、逆に人を介さないことによるスピーディーさが印刷通販の魅了と考える方もいるでしょう。また、平準的な印刷の場合ならば、JAPAN COLOR認証を受けた工場を所有する印刷会社などの場合比較的色再現も安定しているので、それほど一般的な印刷会社と異なる結果にはならない場合もあります。

本機校正を取扱うグラフィックの色校正サービス紹介ページ。印刷通販では本機校正サービスをオプションとしても完全に廃止している会社も少なくない。
出典:https://www.graphic.jp/option/proof/honki.php

今までに紹介した要因以外にも、積極的に新しい印刷機器や技術を採り入れることによる工程の効率化、土地代の安い地方に工場を置くことによるコスト削減、関連印刷会社との提携による受注の効率化など、印刷通販各社独自の低価格化への努力もなされています。

以上、3回に分けて印刷通販が安価にサービスを提供できる理由を紹介してきました。このような印刷通販の特長を比べならば、予算や用途によって、印刷通販と一般的な印刷会社を使い分けて頂ければと思います。

(執筆者:will be will be ヤナギダヒロユキ)