電車内でよく見かける車内広告や、テレビで有名タレントを使ったCMを打つ企業もあり、一般の方にもしっかりと馴染んだ感もある印刷通販。

カラーコピーと同額、もしくはより安価で印刷が可能な通販印刷ですが、なぜそんなに安くサービスが提供可能なのか。その理由を知っている人は意外と少ないのではないでしょうか? その安さの理由について、今回から3回ほどに分けて解説しながら、通販印刷を利用することのメリット・デメリットについても考えてみたいと思います。

印刷通販が安価に提供可能な理由にはいくつかの要因があります。今回はその中でも、効率的な「面付け」という点について解説します。

一般的な印刷会社は同じ絵柄を多面付けする

私たち普段見慣れている印刷物は、A4やA5、B5などの定型サイズや、ハガキや名刺サイズなど、使用される寸法に断裁されています。これらの印刷物は家のプリンタの印刷のように、最初から各々のサイズの紙に印刷されている訳ではありません。

印刷会社での印刷は、これらの印刷物は印刷段階では大きな紙にまとめて並べて印刷され、それを印刷後に利用するサイズ断裁しているのです。このまとめて並べるという作業を、専門用語で「面付け」といいます。

一般的な印刷会社では、1種類の図柄を1枚の用紙から一番効率よく(多く)取れるように、元の用紙のサイズを選択して面付けします。例えばA4判チラシを印刷する場合には、A4判の4倍のサイズのA判全紙(A1)に同じ図柄を8つ面付けする訳です。5000部印刷したい場合、5000÷8=625枚を印刷すればいいのですから、大量の部数を印刷したい場合には効率的な方法だといえます。

注:一般的な印刷会社は同じ図柄をまとめて面付けする場合が多い

印刷通販はバラバラなオーダーを一緒に面付け(ギャンギング)して効率化

しかし印刷通販では、5000部以上といった大部数の発注はあまり多くありません。このため、印刷通販の場合には、別々のオーダーの異なる図柄を大きな紙にまとめて面付けして印刷してしまうのです(この面付けのことを専門用語で「ギャンギング」といいます)。

例えば8人からA4判チラシの各々異なるデザインの図柄が入稿された場合、それをA判全紙(A1)に全部まとめて面付けし、印刷後に断裁して出荷するという訳です。こうすると印刷回数も印刷に必要なハンコ(刷版)も減らせるのですから、大変効率的です。

ただしこの方法は同じ紙に印刷するのですから、用紙の種類や用紙の厚さ(斤量)が異なるオーダーの場合は、それらが同じであるオーダーを探して一緒に面付けする必要があります。

注:印刷通販では異なる図柄をまとめて面付け(ギャンギング)する。図柄G・Hのように判型が同列(A4とA5判のA列やB5とB4のB列同士など)の組み合わせも可。

印刷には予行練習(刷り出し)が必要

ここまで読んで、じゃあA4のチラシが80枚欲しければ、A4のチラシを8面付けて10回印刷するみたいに、一般的な印刷会社だって対応することが可能ではと思われる方もいるでしょう。

しかし、印刷機での印刷には印刷の色が安定するまでに、本印刷の前に予行練習のような「刷り出し」と呼ばれる印刷工程が必要なのです。これには一般的には全紙で100枚程度の印刷が必要とされています。全紙で10枚印刷するために100枚の印刷をするのは大変ムダですよね。なので印刷通販のように少部数のオーダーが多い場合には、複数の絵柄をまとめて印刷するのが一番合理的なのです。

ちなみに印刷通販の商品が届くと、注文した部数に加えてオマケのように、やや多めに印刷物が届く場合が多いと思います。これを印刷業界では「予備」といいますが、これは刷り出しの際に印刷されたものの中から、商品として使えるレベルのものを抜き出して付けているのです。使えるのならば捨てるのはもったいないですし、印刷会社としても廃棄処分の手間が省けますから、一石二鳥ですね。

面付けを効率化することによるユーザ側のデメリット

このように印刷通販で使われる面付けには、少部数を効率よく安価に印刷できるメリットがありますが、他方でデメリットもいくつかあります。

ユーザー側のデメリットとしては、異なる印刷物と一緒に印刷するという工程上、シビアな色管理は望めない点があります。

一般的な印刷会社は色校正を出し、その色校正でオッケーが出た色を基準として印刷を進めます。他の印刷物と一緒に印刷するとこのような細かな管理は難しく、また印刷の特性上、近くに面付けされた図柄の色味の影響を受けやすいので、色再現の正確性やカスタマイズを求めるような印刷物には向かないといえるでしょう(とはいいながら、最近の印刷通販の色再現は、かなり安定した品質の良いものになっていることも確かです)。

面付けを効率化することによる印刷会社側のデメリット

印刷会社側のデメリットとしては、このような面付けで各々の図柄で正確な色再現をするには高い技術力を要する点。そして全紙全体が埋まるオーダーがないと印刷が始められないという点と、オーダーごとの印刷数が大幅に異なると逆にムダな印刷が増えてしまうという点です。

しかしながらこの点に関しては、面付けにAI(人工知能)を利用して図柄やサイズ、数量に合わせた最良の面付けを効率的に進めたり、より多くのオーダーを受けることなどによって、かなり解消されてきています。

今回は印刷通販が安価に提供される理由として、効率的な面付けという点から解説してみました。次回はもう一つの大きな理由である、用紙調達の面から解説してみたいと思います。

(執筆者:will be will be ヤナギダヒロユキ)